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2024年10月 5日 (土)

侍タイムスリッパー

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口コミで評判がひろがって、単館から全国に公開規模が拡大したという話題の映画。この感じ、数年前の「カメラを止めるな!」を思い出します。あの時も、予備知識をシャットダウンして映画館に行ったら本当に面白かったので、今回も同様の驚きを期待し、ほとんど事前情報を入れずに鑑賞しました。

とはいえ、タイトルやポスターから「こんな感じのお話なのかな?」と予想もしたのですが、本作はその全てを気持ちよく上回って来て、最高に楽しい時間を過ごすことが出来ました。

設定や筋運びの妙、そして主演の山口馬木也さんの「カッコ良さ」と「かわいさ」の絶妙なバランス。脇を固める俳優陣はメジャーな顔ぶれではないけれど、それぞれが役に見事にはまっていました。

そして、所々で見られる、この監督の独特の「間」にすごく惹き込まれる瞬間。ポンポンとテンポよく進むところと、えっ?と固唾をのむほどためる演出のコントラストがとても独特で、面白かった。随所に出てくる忘れられない台詞も含め、脚本も撮影もあれもこれもやって米農家との二足のわらじとは、世間にはすごい人材がいるものですね…

真田広之さんの「SHOGUN」がエミー賞を獲り、その感動的な受賞スピーチの記憶も新しい中、こんなに心を動かされる時代劇が大当たりするなんて。

ぜひぜひ、もっとたくさんの人にこの映画に出会ってほしいです。観終わって、心が素直に前を向ける作品でした。

2024年9月19日 (木)

ぼくのお日さま

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アイスホッケーが苦手な少年は、スケート場でフィギュアスケートを練習する少女に惹かれ、やがて彼女のコーチの指導で、二人でアイスダンスのペアを組むことになる…

新進気鋭の奥山大史監督作品、カンヌ国際映画祭で絶賛、等々の情報より何より、このストーリーのプロットが、あるフィギュアスケーターのファンには刺さる要素満載で(要するに高橋大輔さんのキャリアに色々重なるってこと)、公開を楽しみにしていました。

初雪が舞った日から、町に降り積もった雪がすべて溶けて消える頃までの、ひと冬の少年と少女と大人たちの物語。

意図的に、周到に準備をして創り出された映像なのに、奇跡のような美しい時間を、自分だけが偶然目撃しているような感覚で、ずっと息をひそめて見入ってしまいました。

覚束ない少年のスケートがぐんぐんと上達していく様子や、凍った湖面を滑りながらはしゃぐ3人の場面の多幸感は、どこか刹那的な儚さと背中合わせで、涙がにじんでくるほど。

繊細で、キラキラと光を受けてまぶしく輝いているガラス細工のような。

ふいに飛んできた石礫のせいで、粉々に砕け散ってしまっても、そのかけらをすべて集めて、瓶に入れて飾っておきたくなる。

私にとって、宝物のような映画がまた一つ増えました。

大島依提亜さんのアートディレクションが素晴らしいパンフレット。どこを切り取っても美しい映画のスチールが写真集のようで、カンヌでのキャスト陣のオフショットや座談会など、大変充実した内容で、こちらも大変、よかったです。

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2024年9月15日 (日)

国立劇場文楽鑑賞教室

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先週の歌舞伎に続いて、今週も新国立劇場で #夏祭浪花鑑 。今度は小劇場で文楽を。

国立劇場主催の鑑賞教室ですが会場は新国立劇場です…って、まったくいつまでこんなややこしい状況が続くのか。

嘆きつつも、今月の歌舞伎と文楽を両方観る人には「セット割」があり、ありがたく利用いたしました。

中劇場の歌舞伎も色々な工夫、苦心のあとが見られましたが、小劇場の文楽も勝手の違いはあり…まず、いつもなら床本の字幕が舞台に出るのが、スクリーンが設置出来ないのか、必要なら各自スマホアプリでご対応ください、というスタイルになっておりました(あっちゃこっちゃ視線を移す自信がなく利用せず…)。

今までの劇場よりも空間がスタイリッシュな雰囲気で(とにかく壁も床も黒くて暗い)、照明が映える設計を活用する試みでしょうか、現代劇かミュージカルか?というくらいライティングが凝っていました…幕切れにピンスポットを受けてキマる団七は新鮮。個人的には、そんなに光で演出しなくても、人形遣いの技量でどんな感情も存分に表現出来るはず、とも思うのですが、これはこれでかっこよかったです。PARCO劇場の新作文楽を思い出しました。

私が拝見したのはAプロでしたが、人形も床もバランスよく、長町裏の迫力は凄かったです。

推しの紋秀さんがおつぎさんを遣っていて、魚を焼く手元を延々見てしまいました。

以前の同僚がこのところすっかり文楽にハマってくれており、この日も大満足とのことで、案内人として一安心。

後半戦に入った今月の国立劇場公演、歌舞伎も文楽も熱演を大いに楽しませてもらって感謝です。油照りの暑い夏も、芝居の中で伝わる熱さなら最高!

2024年9月 7日 (土)

国立劇場9月歌舞伎公演

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今月は、歌舞伎と文楽で「夏祭浪花鑑 」をW上演するという、何とも心躍る企画が新国立劇場で実現しています。

これまで古典でも新作でも「堅実に脇を固める」、という立ち位置で活躍してきた坂東彦三郎さんが、主役の団七九郎兵衛に大抜擢。兄弟分の一寸徳兵衛を、実弟の坂東亀蔵さんが演じるということで、驚きと同時に膝を打つ、期待高まるキャスティング。

半蔵門の国立劇場が閉まり、仮住まい感のある初台での歌舞伎公演。何とかマイナスをプラスに転換したいと製作陣も苦心しておられるのか、ロビーにフォトスポットがあったり、序幕の舞台は開演前から幕が開いていて撮影可だったり、新しい試みが。SNSでの拡散効果も大いに期待してのことでしょう。確かに、歌舞伎を一度は見てみたいという方には、本当に今月のこの公演はおすすめです。一人でも多くの方に観てほしい!

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今月の主役は、歌舞伎役者の中でも群を抜くイケボの持ち主。登場直後、「へーい…」という受け答えの第一声でもう、低音の魅力が炸裂していて、ああ、これから彦丈の団七が観られるんだ!と期待が高まりました。

男に生まれたからはこうあるべき、という信念を貫く一方で、超人的なヒーローというより、ちょいワルな市井の人。弱さも浅さも併せ持った、観ているこちらと地続き感のある団七。だからこそ、運命の落とし穴に足を取られて、破滅する最後が胸に迫って…

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今回の舞台は、苦心の末か、直角に曲がる花道が客席内を貫き、普段見ない角度で揚幕の向こうに去っていく団七を見送ることになったのですが、もはや生きながら彼岸に行ってしまうようなその背中が忘れられません。

脇を固める面々も堅実で、素顔は似ていると思ったことがないのに、亡父左團次さんに生き写しに見えること度々の市川男女蔵さんにびっくり。そして、このお芝居を色々な座組で観てきた中で、毎度おつぎさんを中村歌女之丞さんが手堅く演じてくださるのが私は嬉しい。団七を襲う悲劇の起点は、すべてこの気の良いおかみさんなのだと思うと怖いのだけど…半分影の世界に生きて、連れ合いの「ワル」の部分にこそ惚れている。天下の法や常識とはズレたルールに身を捧げる、この芝居の世界の人達を、一際リアルに体現する存在だと思うのです。

歌舞伎座のサイズだからこそ実現出来る目眩ましはちょっとこの劇場ではキビシクて、長町裏の殺しの場面、義平次は泥場に沈むというよりどう見ても階段を降りてたし、定式幕が袖でカーテンみたいにまとめられるんだ!と妙なところに気が散ったりもしました。一方で、贅沢に役者さんを近くで感じることが出来て、花道を真正面から観られる席に座ったらどんなにスゴいか。試行錯誤の過程を目撃出来たことは、貴重な経験でした。

いつかまた、彦丈の団七は必ず拝見したいです。

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